~縁の下の力持ち~

みなさんは日ごろ姿勢をどの程度意識しておられるでしょうか?

ご家族やご友人から「姿勢が悪いよ」といわれて初めてご自身の姿勢に気づかれる方も多いのではないでしょうか?

かくいう自分もそうで、そんな時、意識して姿勢をよくしようとは試みるですが、実際なかなか難しい。

でも、実はこれが姿勢の大きな特徴であり、機能の根源ともなっているのです。

今回は知っているようで知らない「姿勢」についてお話してみたいと思います。

元来姿勢は私たちの頭の中で無意識(自動的)に準備・調節されています。もちろん特殊な環境、例えば記念写真の撮影の時などはごく短時間姿勢を意識して修正・調節できるのですが、得てしてそんな時に限って要らないところに力が入って、妙な姿勢や表情になってしまう経験をされたことはありませんか? また「背筋を伸ばして歩く」などのように何かの動作をしながら姿勢を意識的に修正・調節しようとがんばってもいつの間にか忘れてしまって、気がつけばいつも通りの元の姿勢になっているということもよくあることですよね。

例として、電話が鳴って受話器を取ろうと椅子から立ち上がる時のことを考えてみましょう。

立ち上がるのに先立ってあらかじめ足を手前に引いたり、お尻の位置を前にずらせたりしますね。

特に座面が低い椅子に座っている時には顕著にこのような反応が現れます。これらの姿勢の変化は、スムーズに、効率よく立ち上がるために必要な姿勢の準備なのですが、たいてい意識しておらず、自分自身は立ち上がること、ひいては電話に出ることにだけ意識を集中しています。このように無意識に行われる動作に先立つ姿勢の準備のことを「姿勢セット」といいます。

この姿勢セットは「無意識」であることが重要で、そのお陰で私たちはやりたいこと《目的》のみに意識を向けられる、集中できるわけです。まさに姿勢は動作を支える「縁の下の力持ち」なのです。

実際、脳の内でも動作の目的やそれにかかわる動作の多くが大脳皮質で比較的意識的に制御されているのに対して、姿勢の調節は大脳基底核や中脳といったより深い部分を中心に無意識的に制御されています。

~急いては事を仕損じる~

しかし、この無意識であることが返って仇になってしまう場合もあったりします。

縁の下の力持ちである「姿勢セット」(無意識に行われる動作に先立つ姿勢の準備)が適切に行われていれば、動作は円滑に遂行されるのですが、加齢や病気などのために姿勢セットが不十分になったり、遅れてしまうと、元来無意識に調節されているために、その遅れや不十分さに気がつかず、動作を始めてしまい、開始直後や動作の途中でだしぬけにバランスを崩してしまったり、転倒してしまうことがあるのです。

特に「電話が鳴った!」「急に雨が降ってきた!」など慌てている時にはその傾向が強く、例えば、後で思い出してみても、自分がどうして転んだのか分からない!というのは、姿勢セットが無意識に行われているためとも言えます。

さて、ではこのような不意なバランスの崩れや転倒をどのように予防すればいいのでしょうか?

まずなにより慌てないこと、ひと呼吸おいて落ち着いて動作を開始することが大切なんですが、咄嗟の時に慌てるなというのは無理がありますよねえ。

そこで、つね日ごろからあらかじめ準備をしておくこと大切になってくる訳です。その際特に重要なのが体幹(胴体)です。

みなさんも慌てて動作しようとした時に《気持ちばかりが焦って体がついてこない》となった経験をお持ちではないでしょうか?

これは言い換えれば、手は動くけど体幹や脚がついてこない状態。さらに換言すれば、この手が《動作の目的・意識》の部分で、その時の体幹や脚が《姿勢の調節・無意識》の部分なのです。

つまり、姿勢の準備の不足や遅れを予防するためには、日ごろから体幹を鍛えることが重要なのです。昔から動作する時に「下腹に力を入れて!」とか、「丹田(たんでん)に力を込めて!」と言ったりしますが、下腹に力を入れるように心がけることで体幹の中心部分の筋群が働き、安定性が高まって手足が動かしやすくなるのです。

もっというならば、運動の開始以前から常にこの状態を保っておくことが、運動の開始をより円滑にします。

野球を例にとって言いますと、野手が打球に備えて腰を落として構えることや走者も同様に腰を落として進塁や帰塁に備えていたりしますが、これらの事前の構えがそれにあたります。

これを日常生活に当てはめますと、例えば、椅子に腰掛けている時でも、背もたれとの間に隙間をあけて骨盤を寝かせ、猫背になってもたれているよりも、深くしっかり腰かけて体幹を適度に起こしておくこと、また動作の前には、座面にやや浅く腰掛け直して両方の足の裏を床にしっかりつけてからであれば、安定して立ち上がれます。

実際、四六時中気を張って体幹を意識するのは現実的ではなく、また本来の意味から考えても逆効果で、それよりも最初は意識して反復していくと徐々に無意識に、自然にそうした姿勢や体の使い方をできるようになります。

「急いでは事を仕損じる」「備えあれば憂いなし」と心得て気長に反復していただけたらと思います。

※「臍下丹田」(さいかたんでん)・・・へその下あたりにある丹田とよばれるところで、心身の精気の集まるところとされています。 気力が集まるかどうかは分かりませんが、動作を円滑にする力の入れどころとして経験的に認識されていたのでしょう。

理学療法士 丸山哲矢